二度と買うまい。 モンチュラの服。
この服の感想を考えて 思い浮かべずにいられないのがイタリアのスポーツカーだ。
地中海に栄える原色を身に纏ったボディーは官能的な曲線美を描き ごく選ばれた者だけがそのステアリングを握る事が許される。
熟練の職人による手作業で 寸分の狂い無く組み上げられたエンジンはF1のごとく高回転まで一気に駆け上がる。そのエグゾーストノートは楽器にすら例えられ、ドライバーを他には無い快楽の世界に導くのだ。
ここまで褒め上げておいて、最後によくこの注釈が付く。
但し、エンジンが掛かればの話だが。
今回受けた山岳ガイド試験の講習で、先生がこのブランドを褒めちぎっていた。
「モンチュラはよかもんね〜 ちょっと高いけど ハイエンドたい。ガイドがよかもん使わんでどうする?格好良いモン着て憧れられる存在にならんといかんけぇね!」
そうか、そうだよな。
ガイドがお客さんより収入低いのは仕方ないけど、こう云う専門的な道具に金を掛けるべき立場だ。せめてお客さんよりは良い物着ないとな。
で、こう云う高級アウトドア服ブランドの中で丁度モンチュラが自分の回りでもあまり着られてないと言うのもあり、
「よし、自分もこれで行ってみようか」
思い切って買ってみました。シーズン終わりのセールで1万7千円位。
最初に試着した時から腕が長いのは分かっていた。
このブランドが日本での販売に力を入れ始めた時、社長がじきじき本国イタリアからプロモーションに来たのだそうで、その時誰かが日本人の体型に合わないことを指摘したらしい。
そこで社長はこう切って捨てたのだという。
「この服が着れない体型の人は登山をするべきではない。」
「クラッチを踏みきれない短足が フェラーリに乗るべきではない」
このフリースは毛足が長くて密なおかげか、今まで着たどのフリースよりも保温性が良く感じた。肌触りも良くて動きやすく、換気した時の抜けも良い。
これは良い!
と一週間ほどは毎日の様に着ていただろうか。すると袖や裾のストレッチ素材の所に毛玉が出来始めた。
あれ?早くないか?
少し気にして着る頻度を減らして一ヶ月ほどした頃。
ふとした時に前ファスナーが下から開く様になってきた。
流石にこれは無いだろう?!
販売店を通じ輸入元エアモンテに送って ずっと何の音沙汰も無かったのが今日いきなり返送されてきた。
中にはカタログ二冊に以下の文章が添えられていた。
つまり使い方が悪かったと。
このフリースは着る度に背中をぐっと丸めてファスナー最下部に目を近づけて先端がエンドボックス{と言うみたい}にしっかり刺さったかを確認して着ないといけないらしい。
さもなければ極寒の断崖絶壁のテラスで ビレイに目と手が離せない状況において下からファスナーが開いてきて下腹部に凍てつく空気が入り込んでくることになるのです。
山の道具として、これで正常な状況のようで。
こんな奴らと同盟組むから負けちまうんだよ全く。
一応YKKのファスナーを採用しているパタゴニアやユニクロその他のジャケットで{YKK以外のファスナーを探したらうちにはこのモンチュラ以外見つからなかった}同じように左右段違いの状態でスライダーが上がるかをやってみたら ほぼ上がらない。
一着において無理目に引っ張ると一段だけ段差が付いた状態でスライダーが上がりはしたが、それが元で下からファスナーが開き始める事は無かった。
YKKの性能が当たり前と思ってはいけない程良いのかも知れない。
だけど実際、ファスナーがYKKなのって実際今時当たり前みたいな物。別にこんな所でブランドに拘る気は無いけれど、この性能はすでに今の世のスタンダードになっている。
残念ながら、このブランドは まずそのスタンダードに到達していない。
買って残念。
ぐう。