バオバブ

 結婚パーティーのスライドショーに使う写真を探していて、懐かしいのがぼろぼろ出て来た。

 オーストラリア北西部のバオバブの木。
 大変に味があり、美しい木だ。
 「星の王子様」では良くない存在に描かれていたが、テグジュペリもきっと、とにかく何らかの形で人に知らせたくなる存在だったのではなかろうか。

 写真の物ではないが、この木の下でテントを張った記憶がよみがえる。
 一日バイクに跨って川を渡り砂塵を吸い、テントを建ててメシを食い 焚き火をはじめる。が、そこらで拾った草木は勢い良く一瞬で燃え尽きてしまった。
 テントに入り、寝袋にくるまる。
 風にざわざわ揺れる葉が、テントの屋根をすかして見える様に感じた。


 あぁ、今地平線まで、自分以外に人間は居ない。
 地平線を越えたそこの地平線まで、やっぱりきっと居ない。


 ざわざわ・・バッ カン コロロ・・・


 バオバブの木がテントの上に実を落とす。
 子供の頃 商店街の散髪屋の前に据えられていた、高くて大きいほうのガチャガチャのカプセルのような、カラカラ音のする実が落ちてくる。


 梢の向こうに溢れるように輝く星が、命を終えて落ちてくるようだった。