鹿。

 去年は例の本の制作の為、休みの日に雨でなければ必ず何らかの動植物の写真を撮りに行った。
 やはり屋久島固有だったりする希少植物は外せない。花が咲いていなければ華が無い。と言う事で、前もって株のありかを掴んでおいて花の時期に改めて探しに行ったりもした。
 そうしているとひしひしと身にしみて理解できてくることがある。
 鹿の食害だ。


 この写真はクワイカンアオイ
 環境省指定絶滅危惧Ⅱ類(VU)指定の屋久島特産種。
 鹿に見つかりづらい崖地にひっそり、ほんの数週間前には当然ちゃんとした葉がついていた。

 かつては「んなもん どこんでも生えとった」と聞くが、今は中々見ない。
 同じ様に、数年前には写真が撮れた希少シダ、「前はあそこに茂っとった」希少植物がどんどん消えてゆく。
 覚えないといけない植物が減ってラッキー!とはまぁ、思えない。


 と、いうことで近頃鹿が自然破壊をする悪者の様な扱いで、人のあまり来ない林道脇で罠を掛けて殺して埋めるような事を林野庁がやってるし、民間・猟友会の皆様も頑張っていて 最近合法的に食肉化できる施設が完成、観光客の皆さんが昼間「カワイイ」とはしゃいで写真を撮ったバンビちゃんに、ホテルの夕食で涙の再会を果たす機会も増えてきている。{美味しいですよ。}


 縄文杉を案内していて、まぁここ10年で鹿に会う機会はそりゃ増えたと思う。
 特に最近は会うだけじゃなく、その鹿の油断具合が際立っている。登山道からほんの、近けりゃ1m程の距離で、しっかり足を畳んで座りこんで反芻している奴を見る。


 そして先月。
 あまりに動かない、ちょっとおかしい奴がいた。

 帰りには白目を向いてヒクヒクしていた。


 翌日にはやっぱり死んでいて、先輩ガイドが谷に、{といっても結構目の前ではあった}落としておいてくれた。

 まぁ道からちょっと臭う方に入り込んで鹿の死体を見ることはあったとしても、登山道脇で死ぬのをライブで見たのは10年ガイドやってて初めての事。これは流石にちょっとショックな事だったのだが、なんと同じ様な事がまたつい最近あり、今度は自分が谷に落とす番となった。 
 その時手伝ってくれた環境省の方やガイド仲間で言っているのだが、最近森で死臭に出会う機会が妙に多い。
 まぁ生きてる個体の絶対数が増えれば死体の数が増えるのも当然ではあるし、個体数が増えていなくとも、人馴れによって登山道脇で死ぬ個体が増えただけかもしれないので人の感覚などアテにはできない。
 しかししかし。森は鹿の首の届く範囲を食べ尽くし終えた様な状態になって早数年、そこからもまだ増えていると聞く。
 素人考えではあるけれど、そろそろ増加の折り返し地点が来ていても、全く不思議ではないように思えてしまう。


 そもそも、鹿が増えた、植物が減ったと言っているのも人間が記録を残し始めたつい短い期間の間での話。
 元に戻すとしても「いつ」に戻すべきなのか、そして事実戻すことなどはできない。
 今僕らにできるのは、感情を混ぜずに冷静に観察し、記録すること。

 今日はそんな為のブログ、でした。