翅
今まである程度長く暮らしてきたと云う事は、これからも長く暮らしていくのだと どこかで思っていたのだろうか。
自分とさほど変わらぬ長さ この島に暮らしてきた友人がここの所立て続けに島を出て行く。
自分がこの島で今の仕事を始めた時はまだ、宿の庭でテント生活をしていた。
研修が上がるまでは時間も掛かるだろうし 暫くは旅人達の中で一緒に楽しく暮らそうと思っていた。
しかしこの島での生活基盤が出来上がっても居ないのにガイドとして来島者を案内するのはおかしいのではないか?ちゃんとこの島で暮らしていく意志はあるのか?そんな事を問われ、答えられる言葉は「ハイ」だった。
全くの根無し草。その荒野で果てたとして自然の一部、ただそれだけと言う生活を終えたくてこの島にやってきた。望む所だった筈なのに 人から引き出された言葉は自分の物でもどこか疑わしく思えた。
島を出る事になった友人が、旅の加護になるという首にかけたお守りを見せてくれた。
「旅をしていなくても旅人の心を忘れないようにね」
自分の心にコロリと落ちた言葉だった。
先日の勉強会で聞いた話が自分の中でどうもこの話と繋がりたがっている。
恋の乱舞を終えた女王アリは地上に降りて、翅は自然と落ちるものだと思っていたが、種類によっては自ら噛み千切るのだそうだ。
そして翅の無くなった女王を働き蟻と見分けるポイントは その翅の跡が決定的な証拠となる。
彼女らは舞う。死に場所なんかでは無く 活きる場所を目指して。
素敵な事だと思う。
今 自分は振り向かないが、そのとき背中にはまだ翅はあるのだろうか?
もう無かったとしても しかしきっとその痕跡を誇りたい。
飛んで行け。
まぁよかったら 戻っといで。