山岳トイレ問題 海外事情編

 携帯トイレは海外の山ではすでに常識だ!なんていう話があるようなのですが、果たしてどうなのでしょう?
 自分は恐らくそう言っている人達よりは海外のトレッキングや登山の経験が多いと思うのですが、聞いた事も無かった物です。
 海外のアウトドアにおけるトイレの例を、自分の知っている限りでいくらか ご紹介します。



 まずはタスマニアクレイドルマウンテントレイル。
 ここはしっかりと入域の人数等も管理され、金額は高かったけどそれなりに整備も行き届き、何より他にかえがたい非日常体験ができた、素晴らしい場所でした。


 ↑トイレにはこういう張り紙があります。
 面倒くさがりな上英語が苦手でも読む気にさせる漫画調。
 内容は以下↓


 ミニマム・インパクト ブッシュウォーキング
 1 予定を入域時に登録すべし
 2 ゴミは持ち帰れ
 3 道から外れるな
 4 小グループに留めるべし
 5 木を切るな
 6 キャンプサイトを使うべし
 7 植物を採取すな
 8 騒ぐな
 9 “のぐそ”はキャンプ地・水源から 100mは離れた所で。15cmは埋めるべし
 10 食器は50m以上湖から離れた流れで洗え、石鹸等は使用禁止。代わりに砂等を使え
 11 キャンプファイヤー代わりにコンロを使うべし
    {山火事防止の為、便利だしね}
 ※非常時に焚き火をする場合は小さな火に留めしっかり消す事。周りを石で囲まない事


 ここでは前提として人数制限が存在するというのはありますが つまり食器を洗う事と“のぐそ”は認められています。
 普通に歩いて五日かそこらのトレイルです。自然を楽しむと云う事を十分に理解した人が管理をしてくれているのだという事が伝わります。


 キャンプサイトから100m離れた所で、との“のぐそ”指定ではありますが、すべてのキャンプサイトにはトイレがあったと思います。

 コンポストトイレです。
 用を足したら目の前のバケツにためてある小さな木の葉や木屑をカップ一杯かけるだけ。
 タンクが一杯になれば空のタンクに入れ替え熟成させ、のちにヘリコプターで運び出します。
 何処に持っていくのかと聞けば「Backyard」に撒くのだと言っていました。


 タスマニアでは“グリーン党”みたいな自然保護を信条とした政党があるぐらい環境保全意識の高い人が多く、自分も不耕期農法等で少し有名になっている人の家に泊めさせて頂いた時には このコンポストトイレで出すー畑ー食べるーと しっかり循環が成り立っていた。曰く
 「うちで飯を食ったやつはうちで出していって貰わないと困る」
 こういう完全な自然分解に頼るという方法は 人口密度の高い都市部などではとても無理な方法ではある。
 しかし可能な箇所であったならば 土に返ってゆく物をわざわざ化石資源で燃やすと云う事の方にちょっと無駄が過ぎると思えてくる。






 
 次に、アラスカ・デナリ峰{マッキンリー}登山の時の場合。


 その昔、フランスとイタリアの間のモンブランと云う山を縦走した時。
 一般的でないルートから一番ポピュラーなルートに抜ける形の縦走だったのだけど、丁度頂上を通過した途端 細尾根の左右に黄色い花道が出来上がっていた。
 高度順応の為にはとにかく水を飲んで出すしかない。気温の年中低い氷河の上ではそれがすべて現場に留まっていて、これがMont Blanc とは皮肉だなぁと思ったものだった。
 こういう極地的な環境下で、しかもある程度の数の人間が来るとなると何かしらの対策は確かに必要なのだろう。
 デナリ峰ではこれだった。

 クリーン・マウンテニアリング・カン 略してCMC。
 ここも半年以上前からの登山許可申請が必要なのだが、それを受け取りに行く際これを渡される。
 写真左手の円筒形プラ容器が要は便器となり、その隣にある生物分解袋をセットし、使用後その袋はクレバスの中に投棄する。

 


 何といったっけか、アタックキャンプ一つ手前の登頂を伺うための大きなキャンプ地{レンジャーも常駐している}にはCMCを使用しない公衆便所も存在した。

 穴あきのベニヤ板を敷いて仕切りをしただけの中国的トイレだったが、まぁみんな使っていた。
 どんどん上から30度以上のお湯等を注ぐわけだからどんどん深い穴が出来上がっていく。恐らく登山シーズンが終わりレンジャーが居なくなるのと同時に撤去されるのだろうが、ここにパウダースノーが注ぎ込むととんでもない落とし穴になりそうだ。{ま、クレバスの方が怖いか}
 考えてみればうまくできたもので、これが無ければ茶色いポコポコが氷河上に散見される事になるのだろうが、この方法だとまとめて氷河の奥深くまで、自然に送り込まれてゆく。
 CMC使用でクレバスに投げ込まれたブツと共に また地上に現れるのはいつの日なのか??
 そこは大した問題ではないのだろう。



 この登山の後、アラスカで最も多くの観光客が訪れる国立公園、Denali National Parkへ行った。


 この公園内をズバッと横切る一本の未舗装路があり、そこを指定されたバスで移動する事になる。道の途中、停留所のように所々にキャンプサイトが点在するので、入り口でそこを予約して泊まるなり キャンプサイト周辺をハイキングしてまた別に移動するなり、という楽しみ方ができる。

 キャンプサイトには仮設のような水洗トイレがあり、水を流すといかにも強烈殺菌そうな紺色の洗浄液が流れ出てきた。
 車でアクセスできる場所だし、普通にバキュームカーで処理していた。


 ここは本当に強烈な自然体験ができる場所だ。
 ちょっと歩いているとグリズリーやらムースやらという一歩間違えればとんでもないような生き物たちと普通に遭遇するし、しかし決して餌付けされたような不自然な動きは一切見られない。

 ここでは「人間は自然にとって闖入者である」と云う基本方針に沿って色々な事が規制されている。そしてそれらは本当にうまく行っているように思われた。
 しかし規制をするといっても“自由の国アメリカ”、もっと深い自然体験を望む人にも道は開かれている。
 その一本の道路、キャンプ指定地から離れてもっと奥深くに分け入ってゆく“バックカントリー・トレッキング”と云うもの。
 公園内が細かく区画分けされていて、何処に何泊する、という許可を得て自己責任において自然の中に入り込んでゆく。そこにはキャンプ場所・食料の取り扱い、動物との関わり方等色々な制限はあるのだが、排泄物に関しては埋めると云う事になっている様だ。→{Backcountry Camping, Cooking, Water, Sanitation - Denali National Park & Preserve (U.S. National Park Service)ー紙は持ち帰りとなる。}





 ・・・自分が経験として知っているのはこんなものなのですが、どうもカナダでは携帯トイレを使うところがあるらしい、と云う話を聞いたので、カナダに住む親戚{ついこないだ屋久島に遊びに来た}に何か知らないかメールしてみました。

↓以下返信。↓





はろー。

グッドクエスチョン。
屋久島で500円で買った携帯トイレ屋久杉ランドで買ったのを、使わなかったのでお土産に持って帰るか、まさに思案していたところ。
で、使わんからもう持ってかえらないで、次また屋久島に行くときに持っていこう、と思ったところでした☆

実際使えそうやなと思っていたのはむしろ車の移動でトイレがなかった時に使えるかなあ、とかを想定。
山は想定しなかったわ。

カナダの少なくとも東部ではポピュラーな品、ではないと思うよ。
日本人観光客の多いバンフとかバンクーバーの方の山で使われているのかなあ。

私のまわりの人は基本マキオ君の言うとおり、その場でしてるよー。

5ドルとか払って持ち歩くような用意周到な人は少ない、と断言できる!
っていうか、それを売る場所が必要やし・・・

で、最近増えていて、普及しているのが、むしろ、これ
(カナダ政府の自然公園のページ)。屋久島ではないのねん、と思ってた。
http://www.pc.gc.ca/pn-np/on/lawren/ne/edp-ppp/vol1no1/edp-ppp13.aspx

でかいミミズが入ってるらしいです。
http://www.rawstory.com/rs/2012/10/05/turd-eating-worms-clear-air-around-canadian-toilets/


正直500円で買った携帯トイレってなんだんかんだってプラスチックやから、なんか高いしゴミは増えるしっておもった。

コンポストトイレを日本の山でも推奨します!



↑以上↑



 やっぱコンポストトイレ・・・良かったら皆さんもリンク先をご覧下さい。


 携帯トイレは 少なくとも「常識」と云うほど浸透はしてないようです。有名なバンフ国立公園も検索で探したけど色々な所にトイレが設置されているらしい事ぐらいしか解らなかったし、ヨセミテアメリカ}も検索では何も出てこなかった。{ロッククライマーが使っているとは聞くけど そりゃぁ登ってる上から落ちてきたら嫌だもんね。}
 もし実際使用されている場をご存知の方がおられたら、何処でどう云う事情があってそれが推奨されているのか、是非お聞かせ頂けたらと思います。





 そして、これら海外のナショナルパークでの経験を思い返して改めて思うのは、基本的に管理者の向いている方向が日本{というか屋久島なのかな?}とは全く違うと云う事。
 自然を楽しむ、と云う行為を理解し、推進するくらい肯定的に捉え、その上で現実的に自然環境への影響を最小限に抑える。
 そういう態度こそが、先進国の国立自然公園における常識的なものです。
 そして観光地としては、来て下さる観光客の皆様に対しておもてなしの心を持つと云う事。それもまた常識だと思うのです。
 屋久島の山間部の持つ他地域に無い特異性はまぁ解る。別に携帯トイレと云う選択肢も完全否定はしないけど、人が泊まる山小屋に附随するトイレを恒久的に代替する事ができる物とはとても思えない。
 

 今、山間部のトイレを全部携帯トイレに移行しようと云う動きがあるのですが、山小屋にトイレが無いだなんて、そちらの方が非常識だ、と自分は思います。
 


 続く